古代ギリシア研究家・藤村シシンさんによる「古代ギリシア探索」第4回

2018年10月22日| アサシン クリード オデッセイ / 古代ギリシア探索| UBISOFTJAPAN

ついに発売された『アサシン クリード オデッセイ』。皆さんはすでに古代ギリシアの冒険を楽しんでいらっしゃいますか?

私は、「#ACオデッセイ」タグでツイッターを検索し、冒頭のゼウス像の股間によじ登る大量の写真を眺め、幸せに浸っています。

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しかしこれを見て「ゼウスは最高神なのにずいぶんモノが小さいなぁ……規制がかかったのかな」とはどうか思わないで頂きたい。

古代ギリシアの美意識では、今と違って、大きく剥けたモノは野蛮でだらしないモノです。皮のケースにきちんと収納され、慎ましくほっそりしたモノこそが文明的で良いモノと考えられていました。

ですからこれは、「さすが最高神だ!ベストルッキングチンチンだ!」と全人類が感嘆するところです、よろしく願いいたします!

 

そんなわけで、第四回は皆さんにより古代ギリシアを満喫し、そして良い古代ギリシア人しぐさを身につけていただくため、ゲームに絡めた「古代ギリシアの意外な習慣」を語りたいと思います。

 

 

1.人前に全裸で出る時のマナー

冒険を続けるうちに、古代オリンピックが行われたオリンピアの聖域にも行くことになります。古代では最大の聖地の一つです。そこで裸でトレーニングや競技をしている人々に出会うかもしれません。

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(オリンピアの競技場。長さ192m。手前のポールは徒競走の時の折り返し地点。当時はトラックがありませんでした。)

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(現在の同じ場所。白い石がスタートラインです。)

 

古代ギリシアでは、裸こそ人間が最大に美しい状態であり、裸で人前に出ても恥ずかしがらないことが文明人の印であると考えられていました。

当時のオリンピックも全裸で行われていましたが、冒頭でお話しした通り、人前に全裸で出る時には、皮のケースに収まった慎ましいモノであることが文明人たるマナーです。亀頭がまろび出ている方は、恥ずかしくないようにキュノデスメ(犬紐)と呼ばれる紐で皮を結び上げてこのように隠します。

4(犬紐をつけた男性)

 

こういった状態で行われる古代オリンピックの中、観客が特に熱狂したのは「パンクラティオン」と呼ばれる一対一の格闘技です。

「体の柔らかい部分に指を突き入れる(目潰しなど)」以外は相手にどんな攻撃をしても良い、というルールで、相手が戦闘不能になるか参ったと言うまで続けられます。

指を一本一本折っていったり、首を締めて窒息させたりと、かなり危険で残酷な技がかけられていました。

こちらの競技で戦う時はぜひご注意ください。マジで死にます。

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(パンクラティオンで戦う選手たち。関節技をキメているところです。)

 

(プラトン『国家』、フィロストラトス『体育論』ほか)

 

2.ワインは必ず水で割れ!!

古代ギリシア人はワインを必ず水で割って飲みます。そのまま生で飲むのは古代では蛮族しぐさなので、絶対にNG!正気を疑われます。

一般的な割り方は、水:酒=3:2、あるいは5:2の割合です。

これは酔っ払って理性を失うことを恥だと思っていたためと、古代のワインは度数が高く、澱が多かったためと言われています。

 

しかし古代ギリシア人も今日は酔いたいという時には、「蛮族風」に水:酒=1:2で飲むこともあります。(これ以上に酒の割合を高くするのは駄目です!)

また、古代のワインは海水で割ると甘みが増すと考えられていたため、真水の代わりに海水を使うこともあります。

さらに「神酒(ネクタル)」と呼ばれる、酒:蜂蜜の巣:香り高い花々=1:1:1で作るおしゃれなものも。スミレ、バラ、ヒヤシンスの香りが漂う神々のお酒と呼ばれています。これは今でも美味しく香り高いのでぜひ試してみて下さい!

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ちなみに、古代ギリシア人はみんなで集まっての饗宴の時には、食事と一緒にお酒を飲みません。食べ終わってからお酒を飲みはじめます。

 

(アテナイオス『食卓の賢人たち』ほか)

 

 

3.スパルタ人なら盗みと闇討ちは積極的に行え!

『アサシン クリード オデッセイ』の主人公はスパルタ出身!ここで特にスパルタ仕草をご説明させて頂きましょう。

恐ろしい話ではありますが、スパルタでは子供のころから窃盗と闇討ちは教育の一環として教え込まれます。盗みは狡猾さと行動力を養うために必要。見つかると怒られますが、それは盗みを働いたことではなく、「見つかるような下手な盗み方をしたから」という理由で怒られます。また、軍事訓練の一環で闇に乗じた殺人も教え込まれます。

さらに肥満も禁止されており、9日に一回裸に剥かれて太っていないかどうかチェックされ、規定を外れていたら鞭でピシパシ打たれます。

さらに富に対する執着も禁止!スパルタ都市内ではあえて非常に重くした貨幣(6万円=約15kg相当)を使う!お金を気軽に持ち運べないようにし、大金を持たせない!持ち運ぶ時には筋トレにもなる!!

 

さらに散歩も禁止!走れ!!

無駄口も禁止!黙れ!!

 

などの厳しすぎる規則も。これはアレクシオスとカサンドラがあそこまで筋肉と技術を備えた戦士になるのも頷けます(スパルタには女子訓練もあります)。

 

徹底して強い戦士作りを目指し、贅沢を禁じ、豪華絢爛な建物も建てることがなかったスパルタ。それゆえ街並みも非常に素朴でした。

歴史家トゥキュディデスは未来を見越してこう言っています。

 

「時を経て、建造物の礎だけが残ったとき、人々はスパルタを訪れても昔の名声は嘘だったと思うだろう。

しかしアテネを訪れたら当時の実力をその倍に見積もってしまうことだろう。」

 

なんという未来視でしょう、トュキュディデス先生!2500年後の今、まさにその言葉の通りの事態になっています。今スパルタに行っても、アテネとは対照的にほとんど遺跡は何も残っていません。

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(今のスパルタの遺跡。ほぼ何も残っていない。)

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(アテナイは昔も今もすごい!)

 

しかし、『アサシン クリード オデッセイ』の中ではまだ血が通ったスパルタの人々が生きています。

現実の遺跡からでは決して見ることができない、今は亡きスパルタの姿にぜひシンクロしてみてください!

 

(プルタルコス『モラリア』、アイリアノス『ギリシア奇談集』など)