古代ギリシア研究家・藤村シシンさんによる「古代ギリシア探索」第2回

2018年09月07日| アサシン クリード オデッセイ / 古代ギリシア探索| UBISOFTJAPAN

「2回目の記事は古代ギリシアの歴史をざっくりと説明してほしい」。

 

……というUBIさんからのご依頼を見て、思わず「すごい色んなことありましたよ!」という回答が口から出ました。

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一口で「古代ギリシアの歴史」と言っても、日本史で言えば縄文時代から現在までくらいの時代の長さがあります。「私たちも、すごく色々あったじゃん?ほら大化の改新とか、関ヶ原の戦いとか……。」と思うのと同じレベルです。古代ギリシア史としても、どこを起源と取るかによって変わりますが、「少なくとも1000年間以上あってすごい色々あったよ!」なのです。

 

しかし、「『アサシン クリード オデッセイ』の舞台である紀元前5世紀の古代ギリシアをざっくり一言で」と問われれば簡潔にいけます。

ざっくり古代ギリシャ年表 (1)

舞台は「古代ギリシアが最高にブイブイ言わせていた時代」

われわれがイーグルダイブする時代は紀元前5世紀。古典期と呼ばれる黄金時代です。

民主政の成立!パルテノン神殿の建立!哲学や演劇が花開いた時代!!ペリクレス、ソクラテス、ヘロドトス、ソフォクレス、エウリピデス、ヒポクラテス!

「世界史」や「倫理」の教科書に雁首そろえて出てきた挙句、全員名前が「ス」で終わって高校生を恐怖のどん底に陥れた彼らは、みんなこの時代の人たちです。

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(登場人物の哲学者ソクラテスもこの時代の重要キャラ。哲学の授業にお金をとらなかったので、彼はかなり貧乏。毛羽立ってヨレヨレのウールの外衣がとっても彼らしい!)

 

そう、我々が「古代ギリシア」と聞いてイメージするほとんど全てがこの時代のもの。現代に至るまで影響力が凄まじい時代です。

ゲーム中でもこの時代を存分に味わえると思うと、「見せてくれ……!古代ギリシア最高のブイブイ感を……!」と私も期待が高まります。

 

では、この『アサシン クリード オデッセイ』の舞台が整うまで、どういう大化の改新があったかを時代を遡りながらざっくりとお話しいたしましょう。

 

 

ペロポネソス戦争は関ヶ原の戦いのつもりで挑んでほしい

『アサシン クリード オデッセイ』は紀元前431年から始まる第二次ペロポネソス戦争をテーマとしています。古代ギリシアの都市国家スパルタとアテナイを中心とした大きな内戦です。

日本史でいう関ヶ原の戦いのようなイメージが近いかもしれません。スパルタが勝つか、アテナイが勝つか。結果次第で国の未来が大きく変わるような、絶対に負けられない戦いです!「異国の戦いだし、別にどっちが勝っても……」なんて思ってないだろうな!みんな、槍は持ったか!!

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(左側にアテナイのシンボルであるフクロウのマーク、右側にスパルタの「Λ(ラムダ)」が見えます。アテナイ vs スパルタの戦いがテーマだと分かります。)

 

このペロポネソス戦争が激化した理由の一つは、隣国のペルシア帝国の介入です。古代ギリシアは1500からなる独立した都市国家の集合体であり、実はこの時に至るまで統一国家は成立していませんでした。だから「古代ギリシア」という一つの国は一度も存在したことがありません。

ペルシアはこのギリシア諸都市が一つの大きな国になって自分の帝国を脅かすことを恐れました。だから裏から介入し、スパルタ側に資金援助をして戦争を深刻化させたのです。

 

ペルシア戦争は元寇(げんこう)のように思い起こしてほしい

「ペルシア帝国は回りくどく裏から介入するくらいなら、ギリシアが大国になる前に攻めれば良いのではないか?」と思われるかもしれません。

しかし、それは60年前にすでに実行済みでした。紀元前490年から起こった「ペルシア戦争」です。

海を渡って攻めてきたペルシア帝国VSギリシアの戦い。これは古代ギリシアにとっての元寇のようなもので、強大な国が海を超えてやってくるというものでしたが、なんとか勝利し、ペルシアを退却させることに成功します。

映画「300(スリーハンドレッド)」もこの戦争がテーマでした。

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(この戦争でパルテノン神殿が破壊されてしまうのですが、新築された出来立てホヤホヤのパルテノン神殿をゲームで見ることができます。もちろん、今ギリシアに建っているパルテノン神殿もこの時のものです。)

 

そして自分たちより遥かに強大な帝国に勝利したことが古代ギリシア人のテンションを最高にハイにさせます。

自分たちの文化、歴史、芸術を意識させ、われわれの「古代ギリシアが最高にブイブイ言わせていた時代」=古典期に繋がっていきます。

 

古代ギリシア伝統芸「都市同士がすごい仲悪い」

しかし、先ほどお話したように、古代ギリシアは大小1500ほどの独立した都市国家からなっています。この時も全ギリシア都市国家が挙国一致で戦ったわけではなく、実際にペルシアと戦ったのは31都市程度に過ぎませんでした。

ペルシアに抗戦した都市よりも、ペルシア側についたギリシア都市の方が多かったくらいです。

 

この協調性の無さ、都市国家が統一されなかった原因は、都市国家が成立した紀元前8世紀から続く古代ギリシア伝統芸です。ギリシアの地形は山が多く平野がほとんどないこと、土壌が貧弱だったので富が集中しにくかったことなどで大きな国というものは生まれにくかった、と考えられています。

ゲームの中でもこの400年続く「仲が悪い都市」の伝統芸を体験できると思います。

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ゲームでも主要な都市国家がたくさん出てきます。だいたいみんな仲悪いです。

 

そして古代ギリシアは……王がいない!

富が集中せず、国が統一されないということは、絶対的な支配者が生まれないということに繋がります。

もし「古代ギリシアの何が一番特徴的か?」と聞かれたら、私はこの「絶対的な権力を持つ王がいないこと」を挙げます。

スパルタは王がいますが、王が二人いる二王制というシステムをとっていて、権限も大きくありません。

アテナイは貴族政から民主政に切り替わります。都市国家はこのように貴族政や寡頭政(一部エリート層による支配)を取ることはありますが、専制君主はいません。

 

古代ギリシア人自身もこう言ってきます、「(豊かなアジアと違って)、我々は貧困とともに育ってきた。しかし法と知恵とによって貧困を乗り越え、幾度も専制君主制を防いできたのだ」。

 

 

もう少し遡って神話の時代へ

紀元前8世紀からさらに時代を400年ほど遡ると王がいた時代もあります(ミノア文明、ミケーネ文明と言われる時代です)。これは古代ギリシア人にとってははるか昔の神話の時代と言えます。

ですからギリシア神話の中には王族がたくさん出てきます。

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『アサシン クリード オデッセイ』の中に、海中に沈む神殿の描写が出てきますが、右下に描かれている壁画は作中から1000年前の神話の時代の様式の壁画です。このように歴史の「層」がビジュアルとして体験できるのも面白いところです。

 

そして未来の『アサシン クリード オリジンズ』へ

さて、神話の時代まで遡ったので、最後に簡単に『アサシン クリード オデッセイ』の後の時代を簡単にお話ししておきましょう。

 

深刻な内戦であるペロポネソス戦争が終わった後も、ギリシアはついに統一することがありませんでした。しかし、そこへやってきた北方のマケドニア王国(フィリッポス2世、アレクサンドロス大王)によって、今まで誰にも成し遂げられなかった古代ギリシア征服が達成されます。

その後は古代ローマの支配を受けますが、ギリシアの文化はエジプトにもローマにも広がることになりました。

 

こうして紀元前1世紀、海の向こうのアレクサンドリアの大灯台に繋がります。前作『アサシン クリード オリジンズ』の舞台です。

 

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『アサシン クリード オリジンズ』で登ったアレクサンドリアの大灯台からの眺めは、『アサシン クリード オデッセイ』からはずっとずっと未来、400年後の風景です。関ヶ原の戦いから現代くらいまでの隔たりがあります。

 

ここで夕日をぼんやり眺めていると、なんともセンチメンタルな気分になってきます。

紀元前8世紀から続いたギリシア諸都市の独立はとうに失われた。しかし、今やギリシアの文化は西に東に広がっている……。

 

ここで冒頭の質問、「さあ古代ギリシアのいままでの歴史をざっくりと聞かせて」を投げかけられたら、私はこう答えてしまいます。

 

「ざっくりとは言わず、ゆっくり語ろうではないか。ギリシアが最も華やかだった栄光の時代を。そしてかのペロポネソス戦争で彼らがどう戦ったかを」。

 

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古代ギリシア全史を通しても、『アサシン クリード オデッセイ』の舞台はそのくらいアツく語らずにはいられない時代なのです!!あと3000字くれ!!!