「映画のプロット
じゃないの?」
と思わせる
圧倒的な世界観
MEETS VARIOUS ARTISTS vol.3山下敦弘・映画監督
YAMASHITA
NOBUHIRO
美しく作り込まれた異国の風景を眺めている瞬間は、
癒されました
美しく作り込まれた異国の
風景を眺めている瞬間は、
癒されました
ーこれまでの『ファークライ』シリーズに触れたこと
は?
じつは今回、初めてプレイさせていただきました。ゲ
ームを体験させてもらうまえに、設定資料やプロモ
ーショ
ン動画などを見せていただいたのですが、
「これ本当にゲーム?」、「映画のプロットじゃないの?」と思うほ
どのボリュームと圧倒的な世界観でと
ても驚きました。
ゲームといえば、レトロゲーム時代の”ぺらぺらの説
明書”しか知らない世代でして、ここまで世界観が作
り込ま
れたゲームの資料を見たことがありませんでし
たので……。
ー実際に『ファークライ6』をプレイした感想は?
ゲーム序盤を遊ばせていただいたのですが、「目が回
る~」というのが正直な感想です(笑)。
360度、自分の動きたい方向へ視点を変えられるの
は、いまのゲームにとっては当たりまえのことだと思
うので
すが、基本”ゲームにハマる”という人生を送っ
てこなかった45歳の自分にとっては、その自由度の
高さおよび、
無限の選択肢に頭がクラクラしてしまい
ました(笑)。
とはいえ、いま世間的に外出が制限されるなか、本
作の美しく作り込まれた異国の風景を眺めている瞬
間は、ち
ょっとだけ癒されましたね。とくに、馬に
乗って島国ヤーラを走り回っているときは、本当に
気持ちよかったで
す……しかしその直後、敵と遭遇
して銃撃戦となり、再び目が回ってしまいましたけど
(笑)。
ー山下さんにとってゲームの良さや魅力とはどのよう
な部分ですか?
ひとことで表現するならば”現実逃避”でしょうか。も
ちろんネガティブな意味ではなく、生活するうえで自
然と
溜まっていくストレスを発散したり、一瞬忘れさ
せてくれたりする効果があると思います。
広い意味で捉えると”映画”も同じ効果があると思いま
す。面白い映画ほど観ている瞬間はほかのことを考え
ず
に、その映画と同化してしまうような錯覚を覚え
ますよね。人間、そういった”現実逃避”の時間も必要
なんだと
思います。
物語を追うだけでも充分魅力的に感じました
物語を追うだけでも充分魅力的に感じました
ー本作は、祖国を解放するために独裁者に
立ち向かうゲリラ兵の世界を描いていま
す。物語や世界
観の印象はいかがでした
か?
“キューバ”をモデルにした架空の島国とい
う設定ですが、キューバを選んだそのセン
スに嬉しくな
りました。”独裁政権”、”革
命”、”ゲリラ”など、とにかくワクワク、ド
キドキ、ヒリヒリするワー
ドが並び、とく
に男子にはたまらないんじゃないかと思い
ます。
なお実際のキューバは、ある時期から西側
諸国の禁輸措置を受けています。そのよう
な設定も活か
されているのか、本作に登場
するクルマも古いものばかりで、また物資
が乏しいなか、限られたア
イテムを活用し
つつ物語を進めていくなど、ディティール
まで細かくこだわっている点にも感心し
ま
した。
ー本作に登場する各キャラクターの印象
は?
アントン・カスティロ大統領を演じた、俳
優のジャンカルロ・エスポジート……昔の
映画で見たこ
とがあるなあ、と思って調べ
てみたら、大好きな映画『ドゥ・ザ・ライ
ト・シング』(1989年)のバ
ギン・アウト
役だったので嬉しくなりました。
今回の体験プレイでは日本語吹き替えで遊
ばせていただいたのですが、オリジナル音
声(日本語字
幕)バージョンも選択できます
よね? 次に遊ぶときは、せっかくならば実
際の俳優の生の声で遊んで
みたいなと思い
ました。
また、映画監督としての性なのか、ゲーム
のプレイパートではなく、早くドラマパー
トが見たくな
るんですよね(笑)。それぞれ
のキャラクターたちに説得力があって、物
語を追うだけでも充分魅力
的に感じまし
た。
ー昨今のゲーム制作の流れとして、実在の俳優・役者
が、3DCGになって出演することも多くなってきてい
ます
が、どのように感じていますか?
プロの俳優が演じることで、深みを与えているんだと
思います。
体の動き、表情においても説得力のあるキャラクタ
ーになっているのではないでしょうか。演じる俳優
側の気持
ちは想像するしかないですが、映画やドラ
マとはまた違ったスケールで描かれるゲームの世界で
演じるのも、い
つもとは違った刺激があるのではな
いかと思います。
もし、自分にゲームの演出のオファーが来たならば、
実写では実現不可能な壮大なスケールの物語を、実際
の俳
優で演出できたら、さぞ楽しいだろうなと思い
ますね。
ーちなみに、主人公ダニー・ロハスの性別は男女から
選択できるのですが、どちらを選択しましたか?
同性キャラの方が進行しやすいのかなと思い、男性
のダニー・ロハスを選択しました。もし、ひと通りゲ
ームを
終え、2周目をプレイする際には女性のダニ
ー・ロハスを選んでみるのも面白いかもしれません。
いろんな関係性が反転して見え、同じゲームなのにま
た違った見え方ができるんじゃないかと思います。
といいますか、主人公の性別も選択出来るなん
て……昨今のゲームではそんな珍しいことではないの
かもしれま
せんが、なんか浦島太郎になったような
気分です(笑)。
映画や演劇とは違う方向性の満足感や達成感を
得られるのがゲームの醍醐味
映画や演劇とは違う
方向性の満足感や達成感を
得られるのがゲームの醍醐味
ー仕事がら、多くの番組や映画、演劇などを見られ
る機会が多いと思いますが、それらにはない(あるい
は同等
の)ゲームの醍醐味はどのような部分だと思い
ますか?
映画や演劇は、基本、観客は完成されたものを一方
的に与えられますが、ゲームは与えられつつも自分自
身で操
作でき、作品に参加できることが大きな違い
だと思います。
映画や演劇とは違う方向性の満足感や達成感を得ら
れるのがゲームの醍醐味のひとつなんじゃないでしょ
うか。
『スーパーマリオブラザーズ』を全面クリアできなか
った自分が言うのも説得力がないですが(笑)、小学生
のこ
ろにみんなで協力して、『ポートピア連続殺人事
件』を解決したときの、あの達成感はいまでもハッ
キリと憶え
ています。
ー技術の進歩により、ゲームでも実写のような映像を
作れるようになってきました。その表現力の進化
は、映像
メディアにどのような影響を与えたと思いま
すか?
個人的な解釈ですが、最近のゲームは実写とアニメの
中間に存在するような、そんな印象を受けています。
実写
が持つ生々しさや重量感、アニメが持つ幅広い
表現の魅力……そのあいだにゲーム(の映像)があるような、そん
な感じがしています。
自分はおもに映画(実写)を仕事としていますが、本作
のような技術や表現力の進んだゲームを体験してみる
と、
「実写にしか出せない魅力とは何か?」、「生
身の人間にしか出来ない表現とは何か?」……そん
なことを考え
させられるんですよね。
ーゲームの表現・演出・手法において、魅力的だと感
じる部分はどのようなところですか?
映画監督として「羨ましいなあ」と思う部分は、360
度ワンシーンワンカットで描けるという部分です。
街なかで映画やドラマを撮影する場合は、予算の都
合上、360度全方向を作り込んで撮影することが困難
で、必
要最低限どう切り取っていくのかをいつも考え
ています。
『ファークライ6』冒頭の市街戦のシーンでは、敵兵
士に見つからないようにボートまで辿り着くシチュエ
ーシ
ョンがあるのですが、そのような場面をワンシー
ンワンカットで描ける(操作できる)のは、「やっぱり
ゲームな
らではだな」と感心しました。アルフォン
ソ・キュアロン監督のSFアクション映画『トゥモロ
ー・ワールド』
(2006年)のラストの市街戦を思い出しながら操作
してましたね
ー『ファークライ6』では、ダックス
フントの”チョリソー”やクロコダイル
の”グアポ”など、
動物とペアを組んで
戦うこともできます。山下さんが、仕
事および人生で戦ううえでの”相棒
(ア
ミーゴ)”とは?
そもそも自分はなぜ映画監督という立
場を選んだのかと言うと、”ひとりで
は何も作れない”か
らです。人並み
に”何かを表現したい”という衝動は持
っていたのですが、ひとりでも表現で
き
る小説やマンガ、音楽などは自分に
は向いておらず、集団で作ることが前
提の映画が自分には
向いていたという
か、それしかなかったので……。
そういう意味では、自分にとっての相
棒(アミーゴ)は、映画制作に携わって
いるすべての人が
そうなのだと思いま
す。しいて名前を挙げるならば、自分
が監督したドラマ『山田孝之の東京
都
北区赤羽』(2015年)で一緒だった俳
優・山田孝之くんはアミーゴと呼べる
かもしれませ
ん。顔もラテン系だし。
ー『ファークライ6』のどのような部
分を、どのような人たちに楽しんでも
らいたいですか?
ゲームのいちばんの特性は、作品
に”参加”できることだと思います。も
しかしたら”参加”とい
うレベルではな
く、”支配”とも表現できるのではない
かと。それはもちろん無限ではないの
で
すが、それでも映像表現というジャ
ンルのなかで、ここまで選択肢が多く
自由度が高いのは、
なんといって
も”ゲーム”なんだと思います。
では、映画やドラマが表現として劣っ
ているのかといえばもちろんそうでは
なく、ゲームには
ない表現の豊かさが
映画、ドラマにはあります。しかし、
やはりゲームの強みは、自分の脳か
ら
指先を伝って(ゲームの)世界と繋が
り”参加”できる部分だと思いますね。
ほとんどゲームをし
てこなかった自分
ですが、導入のドラマ部分から自然と
その世界に入り込むことができました
し、途中、馬に乗って移動する場面で
は、素直に「気持ちいい」と心のなか
で呟いていまし
た。いま、人との距離
の制限があったり、なかなか遠出でき
ない状況ですが、『ファークライ
6』
の世界を彷徨い、南国の太陽を浴びな
がら海を見ていると、少しだけ癒され
たような気分
になります。
正直、自分はまだまだ操作がおぼつか
ず、力み過ぎてしまいますが、本作
の続きを遊んてみた
いです。そして、
ラストを迎えた時の達成感はどんな感
じなのか? 近いうちに味わいたいと
思います。
本文・編集:ローリング内沢/村田征二朗
選択肢が多く自由度が高いのは
なんといっても“ゲーム”なんだと思います
選択肢が多く自由度が高いのは
なんといっても“ゲーム”なんだと思います