Assassin's Creed 3 アサシン クリードⅢ
本作『アサシンクリードIII』の舞台となるアメリカ独立戦争の時代(18世紀)は、すでに銃が普及したあとの世界だ。これまでも本シリーズには、主人公が手にする武器として銃が登場したことがある。しかし、それは初代『アサシンクリード』主人公・アルタイルが「エデンの果実」から得た知識を記録したもの(写本)を参考に、ルネサンス時代の天才レオナルド・ダ・ヴィンチが複製したものであった。そのため、かなり特殊な事例であったというべきだろう。歩兵や一般の民衆が銃を手にするようになっているのが、本作の時代だ。
この時代にもっともポピュラーだった銃は、マスケット銃である。レッドコート(イギリス兵)やアメリカ民兵が作中で使用しているのは、すべてマスケット銃だ。この銃の構造は、戦国時代に日本に伝来した火縄銃に近い。銃の先から弾を装填する先込式で、一発撃つごとに銃身を掃除する必要がある。そのため連射はできない。しかし、マスケット銃は点火の際に火縄ではなく、フリント(火打ち石)を用いる。そのためフリントロック式と呼ばれるが、これにより不発率が大幅に改善された。火縄を使わないため、兵士が密集して一斉射撃をすることが容易となり、また火蓋を閉じたまま射撃できるため雨天でも一応は使用できた。武器としての信頼性が向上し、さらにコストダウンも可能になったことから、マスケット銃は飛躍的に広まっていったのである。そして、マスケット銃の普及にともない、徐々に歩兵の集団戦術も変化していく。
ちなみに、装填に時間がかかるため、射撃後に無防備となりやすい点をカバーしたのが銃剣だ。砲身の先端部に短剣を装着し、射撃できない状況でも銃を武器として用いることができる。これは17世紀にフランスで発明された。『レディリバティ』に登場するフランス兵は銃剣を携行しているが、当時の時代背景を考えれば、まさに「お国柄」といったところだろう。
当時のイギリス軍の歩兵戦術は、横隊戦術と呼ばれるものだ。歩兵を横に並べた列を数列組んだ隊形で、ヨーロッパでは伝統的な戦術である。当時のイギリス軍は傭兵が中心であったため、兵を集団で(隊として)機能させるには、一挙手一投足まで厳しい規律で縛る必要があった。横隊戦術は、開けた平野部では正面に高い攻撃力を集中できる反面、行軍速度は遅く、また複雑な地形でのゲリラ戦術には対処しきれない。対してアメリカ軍は、隊形を組まずに個々に戦闘する散兵戦術を用いた。そのため、兵力や物資で劣りながらも、イギリス軍と互角以上の戦いができたのである。イギリス軍は独立戦争での敗北を糧として、のちナポレオン戦争の頃に歩兵の戦術を大幅に改革する。
もともとはアメリカ先住民が狩猟に用いていた小型の斧。木製の柄に石斧をくくりつけたものだったが、白人との交流が盛んになって鉄製の斧が手に入るようになると、石斧に代わって鉄製の刃が装着されるようになる。通常の斧と異なり、刃先が反っているのが特徴。片手でも使用でき、また投げて使うこともある。
マスケット銃の有効射程は、およそ80〜100メートルとされる。弾の装填に時間がかかることを考慮すると、一発発射したあとに次の弾を込めているあいだに敵に間合いを詰められてしまう。そのため、マスケット銃で一撃必倒とするには、できるだけ敵を引きつけてから射撃する必要がある。バンカーヒルの戦いで大陸軍を指揮したウィリアム・パットナム将軍は、「相手の白目が見えるまでは撃つな」と命令したほどである。大陸軍は物資が乏しく、無駄弾を撃てない事情があったのも確かだろう。いずれにせよ、敵を引きつけてから撃つという、かなり度胸のいる武器であったことは間違いない。このような命中精度の低さの原因は、弾の形状が当時はまだ球形であったことと、銃身の内側にライフリングがきられておらず、弾丸がスパイラル状に回転していなかったためである。独立戦争の終わり頃にはライフリングを施したドイツ製の銃も一部で使用されるようになったが、弾が球形から弾丸型になるのは更に100年もあとのことだ。有効射程、命中精度、次発装填の観点から、達人レベルであれば、まだまだ十分に弓の有用性も高かった。コナーが弓を携帯しているのもこういった理由からと言える。